第1部の講義に続いて第2部はワークショップです。

第2部では、2つのワークショップを子どもたちにしてもらいました。

1つめは「議論に負けないコツ」。対立する意見が出たときに、それを言い争いでもどちらかが我慢するような安易な妥協でも多数決でもなく、どのように解決するかをドイツの哲学者ヘーゲルの「弁証法」を用いて、自身のフランスでの経験から紐解きます。

ひきたよしあきがフランスに住む友人宅へお邪魔したときのこと。せっかく来てくれたのだからと友人はベルサイユ宮殿に行くことを提案しました。しかし、彼の妻は混雑や自分の体調の悪さなどから反対します。言い争いになりかけたそのとき、その家の小学校4年生の娘さんが1枚の紙を持ってきて線を引きました。
彼女はここでヘーゲルの弁証法を実践します。フランスでは小学校3年生くらいからこの哲学を勉強して、議論の仕方というものを学ぶのだそうです。ある意見があれば必ず反対意見がある。そのとき、感情的になってケンカをしたり「相手は自分のことを否定している」などと考えたりせずに、両方の意見の良いところを取って対立点を回避し、より高次の解答を導き出すということを学び、生活の中でも実践しているのです。このときは最終的には、日本人があまり行かないお城に行こうという結論が導き出されました。

「ここでみなさんにやってほしいことがあります。同じテーブルに座っているチームで、いまから出す設問に反対意見と賛成意見を考えてほしい。設問は、バスに乗ったとき子どもはお年寄りに席を譲るべきか?です。これは以前、新聞投稿をきっかけに議論になったことがある本当にあった出来事で、ある子どもがお年寄りに席を譲ろうとしたら『おまえはわしを年寄り扱いするのか』と怒られて、その子は怖くなって席を譲ることができなくなった。しかし次にバスに乗ったとき、『最近の子は席も譲らないのね』と言われたそうです。さて、ではチームで譲るべきか譲らないべきか、ではどうするのが良いかというのを話し合ってください。はい、スタート!」

発表の時間です。

最初に指名したチームからは「お年寄りは足腰が弱いから譲ったほうがいい」「見た目で判断するのはどうかと思うので譲らないほうがいい」など、もっともな意見が出てきます。なかには「お年寄りはこの先短いけど、子どもは未来があるから休んだほうがいい」というユニークな意見も。

「素晴らしい!最後の意見はグサリときました。拍手!では次のチームお願いします」

「僕は賛成も反対もどっちもなくて、譲ること、譲らないことを考えるんじゃなくて、見た目とかで判断しないでまずは会話をして、会話が弾んでから判断したり、あとは時間帯とかを考えたりしたほうが良いと思う」

この解答には、ひきたよしあきも驚いた様子。

「素晴らしい!拍手!なにが素晴らしいか?彼は躊躇していたけど立ち上がった。まずはその勇気に拍手してほしいのと、彼のこの紙、反対意見も賛成意見も一つも書いていない」
「それでも彼は一生懸命話してくれた。なぜか? 彼は反対/賛成、譲る/譲らないの問題じゃないと考えた。そもそもそういうことではなくて、会話をすべきなんじゃないか。そして、状況や時間帯、つまり観察をして、会話をして総合的に判断することのほうがだいじなんじゃないか、という結論に達した。こういう意見が出てくることがだいじなの。彼は、僕が出した課題を超えた。意見、反対意見ではなくそれ以前に会話がだいじだという。素晴らしい意見です。もう一度拍手!さて、こちらのチームは?」
「自分は譲る譲らないどっちもあると思っていて、もし譲るとしたら、お年寄りのほうが疲れていたり、杖を持っていたり、ケガをしていたり、障害のマークつけていたりしたら譲る。もし譲らないとしたら、子どもがケガをしていたり、そもそも周りの席があいていることもあるだろうし、お年寄りが元気そうやったりしてたら譲らない」

「彼も意見、反対意見ではなく、もっとだいじなことがあるんじゃないかということです。そう、いまの僕が出した課題は“バスに乗ったとき子どもはお年寄りに席を譲るべきかどうか”。反対の人?賛成の人?で多数決を取ったら、『はい、譲ったほうが、もしくは譲らないほうがいいですよね』となって議論にならない。

ところがいまみんなで話し合ってみた結果なにが出てきたかというと、いやちょっと待てよと。ひきたさん、それ課題自体が間違ってますよと。譲る譲らないの話ではなく、それ以前に対話とか観察とかそういうことがだいじなんじゃないか、という意見が出てきた。

実に類塾らしい。この課題に対してよく観察する、相手の状況をよく見るということが、年寄りとか子どもという決めつけ以上にだいじだという結論を出してくれた。これがヘーゲルの弁証法。みんなが大好きな本源追求なんですね。根本から考えてみたら、この課題設定そのものが甘いんじゃないかと、いかにもこの塾らしい答えが出てきた。本当に素晴らしい!みなさんもう一度拍手!」

興奮冷めやらず、ひきたよしあきの話は続きます。
「これからの勉強というのは一つの答えじゃない。こういうふうに、僕の課題設定に対して課題そのものが間違っているんじゃないかと疑うことがだいじなんだよね。子ども、お年寄りといったっていろんな人がいる。子どもだって病気の人がいるじゃないか、マークを付けている人がいたらそのマークを見る、会話をする、そういうことに思いがいたるということが、これからの勉強なんです。

これからは試験も記述式の問題が増えていく。そのときに、自分の意見が出せるようになるにはどういう勉強が必要か? しかもこれは入試だけの問題ではなく、これから先、みんなが勉強していく中には答えが一つじゃないものが増えていく。そのときにはこのヘーゲルの弁証法を思い出してほしい」。

2つめのワークショップは「語彙を増やすコツ」です。この講演のサブタイトルにも入っている「言葉のマグネット」を手に入れる方法を、谷川俊太郎さんの詩をモチーフに学びます。
「谷川俊太郎さんの『生きる』という詩があります。これは谷川俊太郎さんが『生きる』という言葉を真ん中において、自分が生きるということに対しての言葉からできている詩です。『生きる』という言葉のマグネットに集まってきた言葉。実はこれが語彙を作るということです。ある一つの言葉のマグネットに集まる言葉。それは人それぞれ違うはずで、それぞれの語彙ができていく。この語彙を持っていると、本を読んだり人の話を聞いときに言葉がカラダに入ってくる。さあここで、みんなの、いまこの瞬間に感じる『生きる』を書いてみてほしい。はい、スタート!」

発表です。

笑えること、空気が吸えること、お腹がすくこと、当たり前のことができること、感謝できること、どこかへ行けること、新しいことができること、チャレンジすることができること、聞こえること、匂うこと、呼吸をすること、臓器が働くこと、心臓が動くこと、勉強があること、テストがあること、つらいこと、存在していること、楽しいこと、喉が渇くこと、眠くなること、風邪をひくこと、死んでないこと、鼻がかゆくなること…。

これでもかと「生きる」という言葉のマグネットに吸い寄せられた、それぞれの言葉が出てきます。そのどれもが素晴らしく、オリジナリティに溢れています。ほかの人とぜんぜん違う地図の上を生きている、みんなの「生きる」。これが言葉の力というものなのだと、ひきたよしあきは話します。

「ここにいるみなさんはそれぞれ、谷川俊太郎に負けないくらいの『生きる』という詩を書いてくれた。これから先もぜひこれを続けてほしい。今日は『生きる』という言葉をマグネットに据えたけど、これが『学ぶ』でも『愛する』でもなんでもいい。学ぶとは自分にとってどういうことなのかということをたくさん書いて、考えてほしい。そうするとあなたなりの学ぶという語彙、言葉のマグネットができる。

そうやって言葉のマグネットを強くしていって自分なりの語彙がたくさんできたとき、作文力は上がる。どんな言葉に対しても、自分の単語を持っているからほかの人に書けない文章が書けるようになる。そしてそのマグネットに引き寄せられた言葉たちは、みんなの哲学になっていく。

僕はこの類塾という塾が大好きで、今日は東京から来てこうして講演をしているのだけど、なぜ好きかと言うと、それはただ表面的な勉強をしている塾じゃないから。今日みたいに、ものの根源はなにか、言葉の根源はなにかということを追求しているから。だから強くなれる。大学に入ってなにを学ぼうと、みんなは根源を考えることができる。それはいま追求能力をここで培っているからだ。そういう気持ちで勉強していってほしい。追求していってほしい」
類塾の先生たちも身じろぎもせずに聞き入っています。

「最後に」と言葉を続けます。

君たちは必ず失敗する。これは、私が学んだ早稲田大学を作った大隈重信さんが入学式で言った言葉です」。
「君たちは必ず失敗する。だけどそれを気にするな。落胆するな。どんどん失敗をしろ。早稲田大学は失敗する大学である、そんな話をしたそうです。私は入学してすぐ、ここではたくさん失敗しろ、たくさん失敗して恥ずかしい思いもここでして行けと言われた。その4年間がいまの僕を作ってくれたと思う。

この類塾は一体なにかと言うと、失敗するところなんです。ここではいい成績を取るよりも、間違いノートをたくさん作ることのほうがだいじです。そして、ここにいる限りにおいては、みんなは人から称賛され、エールや拍手をもらえるということをたくさん味わってほしい。そうすることによって、芽生えはじめた自我を鍛えてほしい。

それから、ここにいる間に言葉というものをどんどん追求して、自分の言葉のマグネットにどういうボキャブラリーが集まるかということを経験してほしい。それがどんどん大きくなって、類塾を卒業してからもそれがどんどん増えていったときに、みんなは人の言葉でなく、自分の言葉で語ることができるようになる。どこかから借りてきた言葉ではなく、自分の言葉で自分の本音を語れるようになるのは、言葉のマグネットに自分のボキャブラリーがたくさん集まっているからこそできる。本心のところに言葉がなければ、本心なんて言えない。

そして本心をぶつけると、必ず反対意見が出るだろう。その反対意見に対しては自分への人格否定などとは思わず、その意見を取り入れて、もう一つ高い次元の意見を目指すということをやっていってほしい。

類塾ではそういうことが学べる、教えている。そこがやっぱり僕はほかの塾とはぜんぜん違うと思っている。ぜひみんなも、そういうことをどんどん学んで、ただ成績を上げるのではなくもっと強い学力、もっと強い教養というものを身につけていってほしいと思います」。

実はこの日、『トイレでハッピーになる366の言葉』(通称:トイハピ)の編集者、白田久美さんが本をたくさん用意して、東京から来てくださっていました。
『トイハピ』を購入してくださった方には、サインと記念撮影、ひきたよしあきの会社SmileWordsのステッカーをプレゼントとあって、長い列が。

子どもたちに教えるのが楽しくて仕方がないというひきたよしあき。
類塾で第2回目の講演をする日も、そう遠くないかもしれません。

また会える日を楽しみにしています!
待っててね!

【特別企画】ひきたよしあき×類塾鼎談「読解力と愉快力 〜みんなが笑って暮らせる国へ〜」も併せてご覧ください。